ブレインスポッティングの論文が日本精神神経学雑誌に掲載されました。
鈴木孝信 (2020). ブレインスポッティング:新しい複雑性PTSDへの心理療法―視野上の注視により強められたトラウマへの焦点化と共通要因の活用― 精神神経学雑誌 122, (10), 781-788.
【要約】
本稿では,複雑性PTSDへの応用の可能性のある心理療法として,前半に心理療法「ブレインスポッティング(BSP)」を紹介,後半トラウマ問題を扱う際に前提としたい「共通要因」について論じる. BSPは近年米国で開発され,世界に瞬く間に広がった,トラウマ記憶を扱う心理療法である. BSPの有効性の背景には「フォーカスを深めるための視野上の点の活用」と「耐性を維持するための治療関係性の活用」の2つのユニークな特徴がある. 特にトラウマの問題では,その症状として「回避」が認められるが,BSPはこれらの特徴より,トラウマ記憶からの回避を促さず暴露状態を維持し,また深められたフォーカスによりトラウマ記憶の身体的活性化にふれ,記憶のコンテキスト化(contextualization)を「素早く」「根こそぎに」促進する方法である. 複雑性のトラウマを有するクライアントに対してもBSPは有効な可能性が示唆される. 一方でトラウマ治療における効果の基盤には「共通要因」の存在が示唆されている. 共通要因はどの心理療法にも含まれる共通した要因であり,治療関係性や症状の原因と改善への理論,それに一貫した臨床的な行為が含まれる. メタ分析によると,トラウマ記憶を具体的に扱う方法と,臨床研究の統制群でよく用いられる方法には,後者が病状の改善がめざされるものであれば,統計的な有意差はないことが示されている. 「技法」中心の風潮を見直し,共通要因のなかで効果量の大きい作業同盟や共感(治療関係性)の技術を磨くことが,トラウマ記憶に苦しむクライアントへの援助として最も有効であろう.
Suzuki (2020), Brainspotting: A new approach for complex posttraumatic stress disorder (CPTSD): Treating trauma using the augmented focus by eye-gaze in the visual field, in consideration of common factors. Psychiatria et Neuroligia Japonica, 122(10), 781-788.
【Abstract】
This paper discusses Brainspotting(BSP), a recently developed trauma psychotherapy. BSP contextualizes traumatic memories quickly and deeply through two unique features: 1) the use of the visual field to deepen focus, and 2) the use of therapeutic relationship to hold client’s resiliency. Also discussed in this paper are common factors posited to underlie the effectiveness of trauma psychotherapy; these include relationship, explanation of the disorder and solution, and consistent interventions. Trauma therapists should seek to improve the use of common factors, especially working alliance and empathy, rather than learning multiple commercialized modalities.
2020年11月8日 BTI-J
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